満天☆の海-2

石廊崎沖海難事故聞き書き

船舶インシデント調査報告書 要旨

インシデントの経過と分析

本船プレジャーボート(長さ7.45m、4サイクル4シリンダのディーゼル機関、燃料油軽油)は、船長ほか1人が乗り組み、石廊崎西南西方沖を北進中、突然、主機が停止した。船長は、自力航行不能と判断して錨泊し、海上保安庁に救助を要請した後、機関室に入って、主機の燃料フィルタを確認したところ、水が約半分たまっていたので、水を抜いて主機の始動を試みたものの始動させることができなかった。

船長ほか1人は、来援した海上保安庁のヘリコプターによって救助されたが、本船は、アンカーロープが破断して海岸に漂着し、大破したので廃棄処分された。

船長は、約4年間使用されていない本船を中古で購入し、約100ℓの古い燃料油が入っていた燃料油タンク(容量約200ℓ)に約80ℓを補油後、燃料フィルタから水抜き作業を実施したが、水分が抜けたことの確認をせずに本航海に出発した。船長は、販売業者から燃料フィルタの水抜きを定期的に実施するよう助言を受けていた。

本船は、水分が混入した燃料油が主機に供給されたことから主機が停止し、運航不能となったものと考えられる。燃料油フィルタの水抜きが完全に実施されなかったことから、主機に水分が混入した燃料油が供給されたものと考えられる。


聞き書き

船舶インシデント調査報告書の概要は以上だが、当該事故の当事者であるA氏(船長)と同乗したB氏から直接話を聞く機会があった。聞いてからだいぶ日数が経ち記憶違いもあるかも知れないが、それによると、

A氏が業者から整備済み中古船を購入し、ベテランのB氏に応援を頼み三浦半島から西伊豆に向け回航中であった。船舶保険やBANは回航後検討する予定で出港時は未加入だった。

石廊崎を東から西にまわりこんだあたりで突然エンジンが停止(調査報告書によると位置は石廊埼灯台から真方位241°2.0海里付近)。

西の風が強く(調査報告書によると当時は風向西、風力5、波高2m)、リーショアの為投錨。

エンジンの再始動を試みるも復活しなかったので118番に通報。

海保が来たので曳航してくれるものと思ったが遠くから監視しているだけだった。その後ヘリが来て乗員のみ救助された。(調査報告書では巡視艇が救助に来たことには触れてない)

その後、監視していた巡視艇からモーターボートのアンカーラインが破断してモーターボートが流され始めたとの連絡有り。(ラインが切れたのは投錨から3時間ほど後だった模様なので、巡視艇が到着後ただちに曳航作業に入っていたらと悔やまれる)

その後監視していた海保の船は現場を離れたのか?あるいはモーターボートを見失ったのか、モーターボートの行方が分からないので、捜索船が派遣され海岸に打ち上げられて破損しているモーターボートを発見。

該船は穴があき曳航不能のためクレーン付き台船を派遣して下田まで輸送し、全壊の為解体処分された。

全損したモーターボートの代金は売主側の保険でカバーできたので購入代金は戻ったが、船の捜索費、クレーン台船派遣費、解体処分費、計約250万は自己負担となった。

当事者から聞いたのは以上。

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疑問点と感想

乗員が無事だったことが何よりだが、話しを聞いて疑問を持ったことは、巡視艇が救助活動をしなかったのは何故かということだ。海保の乗員は現場にいて怖かったと後でA氏たちに言ったらしいが、風力5と言えばビュフォート風力階級で1721ノット( 8.010.7m/s)で普通の風だ。ただ、このくらいの風でも石廊崎沖は特殊で、かなり風波が強まるのが一般的ではあるが、近くの中木や下田の漁師たちは、当日、あんな風なんてたいしたことはなかった。俺たちが頼まれれば引張りに行ったものを…と言っていたそうだ。海保はだらしないんだと言ったか言わなかったか知らないが、そういうことだろう。

接近するのが危険と判断したとしてもなぜ巡視艇は曳航ラインを投入しなかったのか?風がウェストなのだから、沖から投入すれば風下のモーターボートに曳航ラインは届くはずではないか?何回かやったけど失敗したというならあきらめもつくが、何もせずただじっと監視していたというのは全く解せない。巡視艇なら200m位の長さの曳航ラインは持っていただろうに。

海保は人命救助はしたがボートは救助しなかったという話をまったく海の知識のない知人にしたら、それはそうだろうと、意外な反応だった。

しかし、風はウェストで、リーショア―だったのだ。アンカーラインが切れたら切り立った西伊豆の海岸に打ちつけられることは容易に想像つくことだ。そうすればボートは破壊され燃料油(出港時約180ℓ積載)が流出する危険もある(今回燃料油が流出したかどうか聞いてないが)。人命だけ救助すれば良いわけじゃない。また、巡視艇がボートを曳航していたら、ヘリの出動も必要なかったし、その後の捜索、クレーン台船派遣、解体処分も起きなかった。


モーターボートが補機無しで航行するにあたりBANや保険に加入してなかったことは迂闊だが、遠くにクルージングに出るわけじゃなく、ちょっと回航するだけだという気の緩みがあったのだろうか。尚、関東海域の漁協はどうか知らないが(西日本の漁協に比べて東日本の漁協は比較的プレジャーボートに冷淡なので)、 西日本を航海中に、漁協に救助を依頼して助けてもらったという話はよく聞いたし、また、加入してなくてもBANに救助を依頼すれば有料で救助の手配をしてくれるはずで、かかった費用は後で保険でカバーすればいいのだという人もいる。海保に頼まなくても、他にそのような方法があることを知っておいた方が良い。ただし、BAN会員であっても人命にかかわり緊急を要すると判断されればBANから118番に依頼しろと言われるようだ。救助船の船長の技量も大いに影響するだろうが。


次に引っかかったのは4年間使用してないモーターボートを完全整備して引き渡す契約をしておきながら、なぜ業者は古い燃料を抜いて燃料タンクを清掃しなかったのかだ。燃料タンクの清掃をして新しい燃料に入れ替えておきさえすればこんな事故は起きなかったはずだ。

三浦半島から事故が起きた石廊崎沖までの距離が50マイルとして航行時間は3時間くらいだろう。そんな短時間に燃料フィルターに半分くらいまで水が溜まったということだから燃料タンクにどのくらい水が溜まっていたのか考えるだけでおそろしい話だ。よく石廊崎まで走って来れたものだと思う。

業者は引渡し前にどのくらいの時間をかけて試運転をしたのだろう?Aさんは立ち会ったのだろうか?4年間も動かしてなかったモーターボートを購入して試運転もせずにいきなり回航したわけではないと思うが。

この事故を教訓として何年も使ってなかった中古船を買う人はくれぐれも慎重を期すように!


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by mantenbosisan | 2017-08-02 22:29 | 航海情報全般