満天☆の海-2

ブローチングのメカニズムー小型船

1、海難審判での事例

教訓海難・御前岩の北で転覆(ブローチング回避措置義務違反)で採り上げた海難審判記録では、ブローチング現象を「波速近くまで増速すると、高起した追い波を斜め船尾方から受けて、下り斜面で速力が増すとともに舵が効かなくなる」現象であるとし、回避策として「斜め追い波を受けないように針路を変えるなり,舵効のある最小限の速力に調整するなど」が必要であったとしていた。

ところが該船はそのようなブローチング回避策を取ることなく、波速よりやや遅い8.0ノットの速力で続航し,右舷船尾方約20度から寄せる高起した追い波によってブローチング現象を生じ,波頂付近の下り斜面で急激に右回頭しながら波谷に向かって左舷船首が突っ込み,通過した同波の背面で右舷側に大傾斜し,復原力を喪失して転覆した。というものだった。

天気予報では,風力3、有義波高約1.5mの東寄りの波浪があったということなので、その海域では10-20分おきに1.5倍の高波が、23時間おきには2倍の高波が来ていた事になる。しかし、水深が変化することで生じる波の浅水変形の特徴は、浅くなるにつれて、波長が短く、波速は遅く、波高は大きくなるので、海難現場の御前岩の浅瀬では波高はもっと高くなっていたはずだ。


2.小型船舶のブローチング

小型船舶のブローチングはネットで探すと海保他いろんなところで採り上げられており、それらをまとめるとだいたい次のようになる。

荒天時に斜め後方からの追い波に押されて下り斜面で加速し、波の速度に同調していわゆる波乗り状態になって舵が効かなくなることがある(注:船と波が同じ速度になれば停止しているのと同じ状態なので舵は効かない)。この状態に陥った船は、船尾が波の谷間から頂部に至る過程で、波の回転運動による水流によってヨーイングが誘発されて船首が瞬間的に振られ、横向きになったところで波に叩かれて横転する。これがブローチングという現象で、波の回転運動による水流のエネルギーは舵効をはるかに超える大きな力とのことだ。

われら海族(http://www.wareraumizoku.com/safetyproceeding.html)のサイトでは次のように解説している。
追い波順走中に高速(特に
20knt以上、小型ボートなどでは15knt以下でも注意)航行する場合※、船は波に押され波に同調するかの速度まで加速されることがある。いわゆる波乗り状態であるが、この状態に陥った船は、船尾が波の谷間(低部)から頂部に至るタイミングで、(1)急激なヨーイング運動が誘発されると共に(2)復原力喪失状態が持続する。この結果船は波の進行と直角方向に回頭しつつ大傾斜する。つまり波間に横たわろうとする。ここに横波がデッキに打ち上げる、積み荷が崩れる、自由水影響、突風などの他の傾斜モーメントが重なると船はさらに傾き、ついには耐航性が損なわれる。復原モーメントの限界を超え転覆するということになるのです。小型・高速船で起こりやすい。

※波速を沖合で18-20knくらい、浅瀬で15knくらいと想定しているようだ。



3.ヨーイング現象とは

われら海族のサイト http://www.wareraumizoku.com/safetyproceeding.htmlで以下のようにわかりやすく解説してくれている。

波には回転運動(水の移動)が起こっていて、波頂部ではその伝搬方向に、波底部ではそれとは逆方向に水が移動している。この力は瞬間的に船を回頭させるモーメントとなり、船が針路から逸れる現象を起こす。これをヨーイングという。 1 軽貨のとき、2 波長が船の長さと同程度で影響を受けやすい。


上記解説を読んで次のように理解した。

波の回転運動の水流は、波の谷では波の進行方向とは逆方向に流れ、波の頂では波と同方向ということなので、仮に右斜め後方からの追い波を受けて走ってる船は、下り斜面の波の谷で船首は左斜め前方から水流を受けて右方向に振られ、波頂にある船尾は左方向に押されるので、船は右向きに旋回しようとする。左斜め後方からの追い波ならこの逆に振られる。

この水流の力は、瞬間的に船を回頭させるモーメントとなり、船が針路から逸れる現象を起こす。舵で対抗できるような力ではない。

しかし、この強大なエネルギーを持つ水流は波に直角に流れるので、船の針路を波に対して正確に直角に維持して走ることが出来ればこの影響を免れる。ブローチングを避けるために波に対して直角に走れと言われるのはそのためなのだろう。


4.ブローチングを避ける上での留意事項

いろんな解説書に書いてあるが、大雑把にまとめてみた。

①斜め追い波を避け、追い波に直角に走る

斜め追波は危険なのでさけるべきだ。特に後方2040度からの斜め追い波が危ない。

ブローチングを避けるためには、追い波に対し直角に走るのが良い。

とはいうものの、一般的に追い波では波頂で船体が不安定になり、下り斜面でサーフィン状態(滑走)となり舵効を失って転覆する危険があることは忘れないように。

②早めの進路変更

保針性が悪くなる、舵が利かない、急激な横揺れがある、などのブローチングの兆候を察知したら、直ちに追い波を受けない方向に進路を変更する。

③船速が波速より少し速く、ゆっくりと波を追い越して進む場合

下り斜面を避けて波の上り斜面にはり付くように速度調整して進むのが良い。

④船速が波速より遅く追い波に追い越されて進む場合

波より少し遅い位の速度が追い波の下り斜面で波速に同調しやすいもっとも危険な速度なので、舵効が効く最低速度に落として危険なサーフィン状態となるのを避け、なるべく早く波を通過させ、次の波の上り斜面ではできるだけ長い時間波の斜面につかまるよう増速する。

⑤大舵は厳禁。小舵角で素早い対応が大事

下り斜面はバウを振られやすい。大舵を取ると水流が乱れて舵が効かなくなるので大舵は避ける。船首尾が振られる予兆を感じたら素早く小刻みに対応して針路修正をすればある程度ブローチングは防げる。

⑥その他気が付いたもろもの。

後方海面のワッチ

バウトリムを避け重量物を船尾方向に集めてスターントリムにする。

重心を下げる

荷物の固縛

小さく浅い舵は波浪で舵が水面から出て舵が効かずブローチングをおこしやすいので大きな舵に変える。



5.参考資料

小型船舶安全運航の為の観天望気を入れた気象海象の話 

http://www.shoankyo.or.jp/kisyou/pdf/khn2.pdf

気象の話波の話 

http://www13.plala.or.jp/oosimakisyou/3nami.html

楽しい気象学入門

https://www.padi.co.jp/scuba-diving/columns/weather-abc/5/ 

われら海族

http://www.wareraumizoku.com/safetyproceeding.html

追い波を受けての航行 関東小型船安全協会

http://www.kaiho.mlit.go.jp/09kanku/koutsubu/anzenkakuho/kantousyouan.pdf

ブローチングを回避するために 中部小型船安全協会

http://www.kaiho.mlit.go.jp/09kanku/koutsubu/anzenkakuho/tyubusyouan.pdf

追い波でこわいブローチング 日本海難防止協会 高松海上保安部

http://www.kaiho.mlit.go.jp/06kanku/takamatsu/d_safety_navigation/d_04anzen/d_4_16iroha/d_4_27_o/d_4_27.html

日本財団図書館「銚子地区安全講習会」事業実施記録書・テキスト

https://nippon.zaidan.info/seikabutsu/1997/00428/mokuji.htm

宮崎海上保安部-小型船事故防止のポイント 転覆のメカニズムと対策について

http://www.kaiho.mlit.go.jp/10kanku/miyazaki/uminoanzen/kogatasen-point/date/tenpukuziko/kogatasen-point.htm

海保の記事はほとんど小安協などからの転載だが、宮崎海上保安部の記事は独自の視点でまとめたもののようで力作だ。






[PR]
by mantenbosisan | 2018-02-19 14:45 | 航海情報全般