1)燃料給油口を閉め忘れて雨に降られる
うっかりミスというのは普通じゃ考えられないような凡ミスを、ついうっかりやってしまうことなんだが、身近にそんな例は事欠かなかった。一時隣組みになった船では停泊中に夜間の落水事故が起きたし、反対隣りにいた船はクルージング中にこともあろうに座礁頻発海域として有名な湾に海図もろくに見ないで入って行って乗り揚げ事故を起こしてしまったし、その後に隣組になった人はたいがいのことは経験しているようななんともすさまじい古強者だったし、さらにその向こう隣も夜間に岸壁で落水して気を失ってるところを救助された。どうして自分の船の周りにはそんな人たちばかりいるんだろうと不思議だったが、たまたまそんな人たちばかりが安良里に集まって来たわけじゃないだろうから、海でミスを起こす確率というのは、実は極めて高いのかもしれない。しかし、誰一人として、もう懲りたと言って海から離れた人はいなかった。海の男はたくましい。
昔あったyachtMLに頻繁に登場していた島津さんというオールドソルトの言葉をここでもう一度引用する。
「よく言われた言葉に、(思考・判断能力は)酔っ払い2分の1、海上3分の1、時化の海上10分の1、というのがあります。平時でも海(船)上では酔っ払い以下の思考能力に落ちるのだから、日頃からの経験がそのまま100%その人のシ-マンシップに上積みされたとしても、最低10 回は同じ経験をしないと同一条件下でもまともに頭と体が動かない、ということになりましょうか。」
「時化というのはイヤですねえ~。何回経験したとしても怖いものではないでしょうか。私思うに、その怖さには大きくわけて2つあると思います。一つは、そのフネの責任者以外で乗船しているときの怖さ。これは専ら自分自身の安全が脅かされつつあるときの恐怖。二つ目は、船長なり艇長なりで乗船し、乗員・乗客・貨物・船体等を含めた自分以外の存在がある場合の恐怖。仮に気象・海象条件を全く同一のものとすれば、後者は前者より何倍も大きいものと思います。自分の責任が大きければ大きいほどそれに比例するのが恐怖です。(それに伴う頭脳の混乱→俗に言うアガリ、を含めて)しかも、この恐怖というのが曲者でして、通常一般的にはこの恐怖に反比例してその場において自分が発揮し(なければならない)うるシ-マンシップが低下する、という誠に具合の悪い傾向を示します。」
上記を引用したからと言って、海でミスが起きるのはしかたのないことだと言っているわけじゃない。それじゃ身もふたもない。海の上では凡人の頭は働かなくなるのだということは、もうこれは経験的に言って事実なんだからしかたないと受け入れて、その上でミスを防ぐにはどうしたらよいかを自分なりに考えて、二重、三重の防御策を講じて日々努力をしていれば、運に見放されなければミスを犯す回数も少しは減るだろうし、ミスを犯したとしても取り返しのつかないような重大事故は防げるかもしれないと思っているのだ。
2020.6.3 発生原因⑥のタイトル変更
財団図書館1級舶用機関整備士指導書2.6 排気ガス色の異常(以下資料と呼ぶ)に詳述されているので、ここでは資料から事例を抽出して簡単な表にまとめたが、資料に記載のない発生原因も載せている。
左列に排気の異常、右列にその発生原因を書いているが、当然のことだが、その発生原因が引き起こすトラブルは左列の排気の異常にとどまらない。オーバーホールやエンジン載せ替えが必要になる事もある。
| 排気の異常 | 発生原因 | |
| 湯気の増加
| ①燃料不良 | 燃料タンク内の結露水や燃料に混入した水が燃焼室に送られて燃える。 |
| ②冷却水量不足 | 冷却水経路の詰まりや故障でエンジンが過熱。 | |
| ③冷却水漏れ | シリンダーヘッド、ヘッドガスケット、シリンダーライナーの損傷により冷却水が燃焼室内に漏れて燃える。 | |
| 白煙、青煙
| ④噴射タイミングの不良 | 着火ミスが起きて白煙や灰色煙を出し、運転不調になる。 |
| ⑤オイル上がり、オイル下がり | 燃焼温度により白煙を出したり青煙を出すが、過冷却による修理を要しない一時的なオイル上がり/オイル下がりもある。 | |
| ⑥その他のトラブルによるオイルの燃焼 | シリンダーヘッドのオイルギャラリーと排気マニホールドの間の壁面に孔があき、オイルが排気経路に漏れて高温の排気で燃焼して青煙を出す等。 | |
| 黒煙
| ⑦吸入抵抗大による酸素不足 | エアークリーナが汚れて目詰まりを起こすと吸入抵抗が増大して空気量が減少する。その結果酸素不足による不完全燃焼となり、出力が低下して黒煙を出す。 |
| ⑧燃料不適 | 粘度の違いや、水分その他の含有量が多すぎる粗悪燃料を使用すると不完全燃焼を起こして黒煙を出す。 | |
| ⑨排気抵抗大 | ミキシングエルボーにカーボンが詰まれば排気抵抗が大きくなる。排気不良になるので吸気もうまく行かなくなり燃焼悪化で黒煙を出す。ヨットでは比較的多いトラブルだ。 | |
| ⑩圧縮漏れ | バルブシートやコンプレッションリングの膠着、シリンダーが磨耗すると圧縮漏れが起こり燃焼不良となる。 | |
| ⑪燃料噴射不良 | 噴射タイミングが早過ぎたり遅すぎたりして起こる。 | |
| ⑫バルブタイミング不良 | バルブクリアランス調整不良、吸排気弁の開閉時期の狂い等。 | |
注:潤滑油が高温で燃えると青煙、低温で燃えると白煙が出る。
潤滑油が燃えても黒煙は出ない。
以下補足
燃料不良(発生原因①)
燃料への水混入は、湯気の増加だけでなく、航行中に突然エンジンが停止したり、燃焼反応により硫酸や塩酸などの有害な無機酸が生じエンジン主要部の腐食摩耗を促進する。
燃料に水が混入して燃焼室に入る主因は燃料タンクにあり、ここには給油時に燃料に交じって入った水やゴミ、長い間に溜まった結露水などが溜まっている。水が燃料と一緒にエンジンに送られればエンジンが停止するし、ゴミが燃料と一緒に吸い上げられて途中の燃料パイプに詰まればエンジンに燃料が送られなくなるのでガス欠となってエンジンがストップする。そのような事故は実際に多いので(※)、油水分離器や燃料フィルターでの水抜きは当然やるとして、燃料タンクも定期的に掃除、水抜きをするべきだ。後悔先に立たず。
尚、ディーゼル用の水抜き剤もあるにはあるが、ディーゼルエンジンに水抜き剤を使うのは良くないようなので使わない方が良い。
冷却水量不足 (発生原因②)
船底を貫通しているスルハルから入った海水は、海水ポンプでエンジンに送られ、エンジンに鋳込まれたウオータージャケット(海水通路)を流れながらエンジン内各所を冷却した後、サーモスタット(エンジン出口に取付けられて出口を開けたり閉じたりしてエンジン内の循環水の温度調整をしている)を通ってエンジンから出る。ウオータージャケットにはエンジン内の循環水の温度管理をする水温センサーも取り付けられており、65°になったらエンジン計器盤の冷却水警告灯が点灯するとともに警報音がピーッとけたたましく鳴り響き、58°に下がったら鳴り止むように設計されている。尚、1GMの場合ウオータージャケットにはエンジン防蝕亜鉛が1個取り付けられている。
(1)冷却水警告灯が点灯して警報音が鳴り、排水の吐出量が少ないなら考えられる要因は下記だ。
・船底側の海水取り入れ口の詰まり(防塵ネットが付いてなければ海中を浮遊しているいろんなものが詰まるし、ネットがあっても貝は付着する。)
・海水ホースの詰まり(特に海水ポンプ入出口接続部、エンジン入り口との接続部付近に塩や貝殻が詰まりやすい。)
・海水ポンプの故障(インペラ、オイルシール、ウオーターシールの破損。特にインペラが破損しやすい。)
・ミキシングエルボーの詰まり
ミキシングエルボーはエンジンの排気マニホールドに接続している太いL型の鋳鉄製パイプのことだが、エンジンから出た排水はここで排気と一緒になって送り出される。比較的塩やカーボンで詰まりやすいところで、ここが詰まって排水が出口を失うと冷却水の循環がストップしてしまうのでエンジンが過熱し排気口からは湯気(白煙)が出るし、排気を阻害されれば当然吸気もうまく行かなくなり不完全燃焼となって黒煙も出る。
・ウオータージャケットの塩詰まり
冷却水経路各所をチェックしても塩詰まり個所が見つからないなら、ウオータージャケット(エンジン内部の冷却水通路)が長い間に少しずつ塩詰まりを起こしている可能性がある。ウオータージャケットは開けて見るわけには行かないので、エンジンをかけて洗浄液(ヤンマーで販売している)を循環させながら洗いだす作業になる⇒エンジン内部の洗浄。作業自体はそれほど難しくないので手順さえ分かれば自分でも出来る。尚、ウオータージャケットの中に防蝕亜鉛の欠片が落ちて詰まることもあるので、防蝕亜鉛が小さくなるまで使わずに(半分位迄にとどめて)年1回はきちんと交換するとともに、取り外す際はウオータージャケット内に欠片を取り落さないように慎重にやることだ。
(2)排水が勢いよく出ているなら考えられる原因は下記だ。
・サーモスタットの故障(閉じたままで開かない)や冷却水のエンジン入り口(エンジン側)の詰まり
サーモスタットが壊れて弁が閉じたままになると、エンジン内の冷却水が出るに出られず留まってるため新しい冷却水がエンジン内に入って行けない。エンジン入り口(エンジン側)が詰まっている場合は勿論冷却水はエンジン内に入って行けない。従ってこれらのケースでは海水ポンプから送られた冷却水の大半はエンジン内に入って冷却するという役目を果たすことなく排水口から吐出しているので、エンジンは過熱する。もし、航行中にサーモスタットが故障した場合(冷却水警告灯が点灯して警報音が鳴る)、サーモスタットを交換するまでもなく取り外してしまえば急場はしのげる。次の港に入ってから交換してやればよい。

冷却水漏れ(発生原因③)
シリンダーヘッド、ヘッドガスケット、シリンダーライナー等が損傷すれば、冷却水が燃焼室内に入る。
資料には「シリンダーヘッドの触火面の亀裂が進展し、水ジャケットまで達すると冷却水が燃焼室へ流入して、始動時水滴が飛散したり運転中に白煙を出す。排気集合管に異常がなければシリンダヘッドを点検し交換修復する。」と書かれているが、シリンダーヘッド触火面というのは、シリンダーヘッドの一番下の面のことで、シリンダー内と排気口を通る燃焼ガスにより運転中は高温となり、周囲から拘束されているので熱膨脹のため内部応力として圧縮を受けるが、エンジンが高温となる高負荷長時間運転と低温になる低負荷運転またはエンジン停止を繰り返していると熱疲労割れを起こす。
ヘッドガスケットというのは、シリンダーブロックとシリンダーヘッドの間にあるガスケットで、シリンダーの圧縮圧力を外に逃がさずに、冷却水やエンジンオイルがシリンダーに入るのを防ぐ非常に重要な役割を持っているので、ここが損傷するということは、その程度により、冷却水や潤滑油が燃焼室に入りこんだり、燃焼室の圧縮圧力が逃げて十分な燃焼が出来なくなることを示唆している。
シリンダーヘッド、ヘッドガスケット、シリンダーライナーを調べるにはシリンダーヘッドを外すしかないので素人が簡単にやれる作業ではない。
シリンダーヘッド、シリンダーライナーについては2級舶用機関整備士指導書、触火面については溶接学会誌を参照。
オイル上がり/下がり(発生原因⑤)
別掲の通り
その他のトラブルによるオイルの燃焼(発生原因⑥)
オイルの燃焼は燃焼室にオイルが入り込んで燃えるだけではなく、下記のような事例もある。IGMや2GMエンジンでは、シリンダーヘッドのオイルギャラリー(エンジン内部のオイル通路)と排気マニホールド(エンジン内の排気通路)の境界面に孔があいて、オイルギャラリーのオイルが排気マニホールドに漏れ出て排気の高温で燃えて青煙を吐出するというトラブルがある。修理するにはシリンダーヘッドの交換しかないようだ。
これは、このエンジンの構造上の問題に電蝕が追い討ちをかけた可能性が疑われる。中にはエンジン防蝕亜鉛の存在さえ知らず交換したことがないというとんでもないオーナーもいるようなので、中古艇を買う際は十分気を付けた方が良い。
追補: 同じ燃料の未燃粒子でも白煙になったり灰色煙になったりする理由を記載。
ヨットエンジンの白煙黒煙については今まで何度か整理してまとめようとトライしてきたがどうもうまく行かず、ブログに掲載―削除を繰り返して来たが、三度目の今回は攻め方を変えて、エンジントラブルによる発煙とそうではない発煙に分けてまとめてみた。三度目の正直となるか。
1)白煙黒煙の発生メカニズム
燃料である軽油の主成分は炭素(C)と水素(H)の化合物である炭化水素だ。
燃料が完全燃焼すれば、炭化水素は酸化されてすなわち酸素(O2)と結びついて、気体である二酸化炭素(CO2)と液体である水(H2O)になるが、水(H2O)もいったん気体(水蒸気)になって排出される。燃料に含まれるその他の成分も酸化されてだいたいは気体として排出されるので、完全燃焼すれば燃料の成分はほとんどが気体となって排出される。
しかし、エンジン温度が十分高くなかったり、燃料・給気バランスが崩れたりした時ば完全燃焼できず、燃料の未燃焼分は気体(不完全燃焼ガス)や液体粒子や固体粒子になって排出される。
これらの排気ガスの中で目に見えるのは光の散乱が起こる液体粒子と固体粒子で、気体は小さすぎて光の散乱が起きないため目に見えない。水は気体(水蒸気)として排出されるものの、排気管から出た後空気に冷やされて液体粒子(湯気)になるので目に見える。

燃料や燃焼室に入り込んだ潤滑油が未燃焼のまま排出されると白煙になり、一部酸化されて排出されると青煙になる。
すなわち、エンジン始動時等エンジン温度が低い時、霧化された燃料や燃焼室に入り込んだ潤滑油が未燃焼のまま排出されると白煙になり(※注1)、低中負荷時等エンジン温度がある程度高くなれば炭化水素が一部酸化(燃焼)して排出されて青煙になる。
燃焼室内で燃料と空気の混合が不均一になり、部分的に空気不足になると、燃料は完全に燃焼せずに炭化された固体粒子(dry soot)を形成し黒煙となる。
すなわち、炭素は燃焼すると酸素と結合して二酸化炭素となるが、船底の汚れ等の高負荷時や急加速時等の負荷変動時には、燃料濃度が濃くなるので炭素が多くなるものの酸素の供給量は変わらない為に、酸素不足になって炭素が燃え残る。この燃え残った炭素が黒いカーボンの塊になって排出されて黒煙になる。
以上は主に日本油化工業 ディーゼルエンジンの発煙の要因および一般財団法人環境優良車普及機構ライブラリ-なるほど!ザ・ワード第1回 粒子状物質(PM)ディーゼルの粒子状物質(PM)を参考にまとめたのだが、財団図書館1級舶用機関整備士指導書2.6 排気ガス色の異常には、更に次のような記述がある。
1)-(3)着火ミス: 噴射した燃料が着火せず、細かな油滴となって排出されると、排気ガスが灰色になって見え(※注2)、黒い細かな油滴が排気出口から飛散する。
2)-(1)潤滑油は低い温度で燃焼すると白煙になるが、高い温度では青煙になる。
2)-(4)過冷却:寒冷時等エンジン温度が低いとエンジンの主要運動部の熱膨張が不足して大きな隙間で運転されるために一時的にオイル上がりやオイル下がりになる。
※注1/2:どちらも燃料の未燃粒子だが、粒子の大きさで煙の色が異なると考えられる。即ち、粒子が光の波長と同じ大きさの場合はミー散乱が起きて白煙になり、粒子がそれより大きくなるにしたがって灰色からだんだん黒ずんで来る。
尚、基本的に係留中の無負荷運転では、エンジン温度はそれほど上がらず燃焼環境はけっして良くはないので、長時間運転は避けた方が良いようだ。仁科ヤンマーさんに教えてもらったのだが、係留中での無負荷中速回転では(あるいは機走中の中速運転時でも)、エンジン温度はさほど上がらないのに冷却水循環量は増大するので、エンジンが冷やされて不完全燃焼となり青煙が出るということだ。⇒エンジン温度が低すぎると青白煙を参照。
2)トラブルではない排煙事例のまとめ
| 排気 | 発生原因 |
| 湯気及び、 白煙、青煙 | ・燃料の燃焼により発生する水が排出されて湯気になる。湯気は白い煙のようにも見えるが、煙のようにいつまでも漂ってることはなく直ぐに消えるので煙との区別はつく。 ・低温始動時等エンジン温度が低い時、燃料や潤滑油が未燃焼のまま排出されて白煙になる。 ・低中負荷時等エンジン温度が高くなれば、炭化水素が一部酸化して青煙になる。 ・係留中の無負荷中速回転時(あるいは機走中の中速運転時でも)、エンジン温度に対して循環水量が多過ぎてエンジンが冷やされるので青煙が出る。 ・寒冷時は、過冷却が原因の一時的オイル上がりやオイル下がりになり、青煙が出る。
上記は、いずれもエンジン温度を上げて燃焼環境を良くすれば改善する。湯気も同じだ。燃焼温度が高いと排気ガスも高温になるので水蒸気も冷えにくくなり、目に見える湯気に変わるまでには空気中に分散してしまうので、ほとんど見えなくなる。 |
| 黒煙 | 高負荷時や負荷変動時には燃料・給気バランスが崩れて酸素不足になり、炭素が燃え残ってススとして排出され黒煙が出るが、負荷を取り除けば燃焼環境が良くなって改善する。 |
参考にした資料
一般財団法人環境優良車普及機構ライブラリ-なるほど!ザ・ワード第1回 粒子状物質(PM)ディーゼルの粒子状物質(PM)
財団図書館1級舶用機関整備士指導書2.6 排気ガス色の異常
コロナ禍さえなければ、今頃はあっちこっちで新ヨットオーナーが誕生している時期ですが、残念ながらちょっと動きづらい状況ですね。早く収束してほしいと願うばかりですが、この機会に中古ヨットを購入する場合の注意点をまとめてみたいと思います。
艇を購入してそのまま同じマリーナに置いておくケースもあれば、長距離の回航が必要になるケースもありますが、この二つのケースでは状況がかなり異なります。前者の場合は極端な話、艇は浮いてさえいれば後は何年もかけて仕上げて行けるわけですが、後者の場合は購入時点で即航海可の程度の良いヨットである必要があります。そうでない場合は購入してから回航迄の間に航海に耐え得る状態にまで仕上げなければなりません。エンジンについて言えば整備、修理記録が何も無く、オーナーが何もしゃべらないなら、言いたくないという事だから何か大きな欠陥があるか、まともにメンテされてなかったと思った方が無難です。中には廃船処理するにも高額な費用がかかるから、引き取ってもらえるならいくら安くても手放したいと思うオーナーもいるようです。このような正体不明のヨットはいつ何が起こっても不思議はありません。例え試乗時に問題が露見しなかったとしても安心はできません。従って回航が必要な場合は買うべきではありませんし、どうしても気に入って買うなら回航迄にエンジンオーバーホール(30~50万円)をすべきでしょう。
回航距離が仮に180マイルとすると巡航速度5ノットで36時間かかります。オーバーナイトでノンストップで5ノットで走ってギリギリ2日間ですね。回航はエンジンがメインになると思いますが、今まできちんとメンテされていたとしてもそれまで月に数回、低速で一日数時間しか機走してなかったようなヨットを、いきなり36時間、ほぼフル回転(1GM の場合)で走らせ続けるのは古いエンジンにとってそうとう過酷です。いきなりオーバーナイトではなく、何日かに分けてゆっくりと回航すべきです。だいたいペラの状態、船底の汚れ具合によっては巡航5ノットで走れるかどうか分かりません。航行中に藻や網、ロープをペラに巻きつけてしまうことも多いです。
回航は機走主体と言えども、船体や艤装の点検も当然必要ですし、シングルハンドで回航するならシングルハンド用のシステムを組んでおく必要もあります。
途中海が荒れてスタンディングリギンに重負荷がかかって切れたらマストが折れます。スルハルバルブが折れたらドッと海水が入ってきます。ラダーが脱落したらセーリングも機走も不可能です。ハリヤード、シート類が劣化していて切れたらセールを揚げる事さえ出来ませんね。帆走不可能な状態で走っていてエンジンが突然ストップしたら大事故につながります。
これは実際に身近で起こった大事故ですが、購入直後の回航時に整備不十分で突然エンジンがストップ、アンカーラインが切れて艇は石廊崎近くの浅瀬に流されてオンザロックして大破、沈没、乗員は海猿にヘリで救助されました。艇の捜索、沈没船の引き揚げ運搬のためのクレーン付き台船の手配、廃棄処分などでかなり大きな費用が発生しましたが、艇は購入直後のバタバタで保険に未加入だったため全て自腹になったそうです。おまけに連日の海保からの事情聴取と罰金で踏んだり蹴ったりだったそうです。
購入時、回航前チェック項目(思いつくままに列挙)
エンジンを固定するボルトの錆びやエンジン外観、
エンジン始動時の異音、アイドリング及び回転を上げた時のエンジン異音、振動音、排水量、排気色、Vベルト
エンジン防蝕亜鉛交換頻度(怠ってると長い間にエンジン各所が腐食)、アース線、エンジンオイル交換頻度(怠ってると内部各所が磨耗)、海水ポンプからの水漏れ、インペラの劣化、オイルパイプの錆(劣化によるオイル漏れ)、
燃料系統の燃料漏れ、油水分離器、燃料フィルター、エヤーフィルター、燃料タンク(長い間にスラッジ、水がたまってる)
ウオーターロックの亀裂(浸水につながる)、ミキシングエルボーの詰まりや劣化(エンジンに排水が逆流)、スタンチューブの漏水量(多すぎると浸水)、シャフト(ガタつきはないか)、シャフトジンク、ペラ(損傷はないか)
バッテリー(しっかり固定してあるかや経過年数、劣化度もチェック)
ハルの損傷有無、スルハルまわりのオズモシスとバルブの劣化、キールボルト、ビルジ溜まり(海水主体)の量と窓などからの雨漏り等
各種船検安全備品、ジャックライン、ハーネス、ライフライン、スタンションの点検、フェンダー、係留ライン、ボートフック、アンカー、アンカーライン
マスト、スタンディングリギンと各種セーリングギヤー(メイン、ジブ、ジブファーラー、ラダー、ティラー、トッピングリフト、レイジージャック(トッピングの代わりにもなる)、ウィンチ(固着してないか)、ハリヤード及びシート類、ブームブレーキ、バックステー、ジブシートリーダー、メインシートトラベラー、ブームバング、各種ブロック等々の作動テスト)、その他シングルハンド用システム
オートパイロット、GPSプロッター、水深計、航海灯の作動テスト
船検名義変更、航行区域の変更手続き、保険、必要ならBAN加入
航海には燃料・エンジンオイルの予備、インペラ、Vベルト等のエンジン消耗部品の予備を必ず持って行くこと。グランドパッキンも忘れずに。
まだいろいろとあると思いますが、思いつくまま書いてみました。


